大阪市立中学校の校長先生(男性)が、全校集会で「女性にとって最も大切なことは子供を2人以上産むこと」と発言したことが話題になっています。(Huffpostに発言詳細があります)
この発言について、妊活中の立場から考えてみたいと思います。
私は子供を望むからこそ妊活しているわけで、子供を産み育てることはとても大切だと思っています。ですが、公の立場の人が学生にこの内容の指導・指示をするのはアウトではないでしょうか。
女の子たちが、さまざまな才能や特性を育てるべく学校で学んでいるというのに、出産をそれ以外の活動より価値のあるものとして序列をつける権利はありません。
また、「子供を持ちましょう!ほかに大切なことなんてありません!」というのは、あくまで精神論です。
世間話ならともかく、公の立場でコメントするには現状分析や対策が伴わないと意味を成しません。
別の分かりやすい例で説明してみると、仮に「薄着で運動すると健康に良いので、子供は外で遊びましょう!」という理想があったとして、外が大吹雪であればよほど寒さ対策をしないと、外に出ても健康を増進するどころか、逆に体調を崩します。
件の校長先生の発言は、そういった、世の中の現状を把握していない無責任な提案ではないかと思います。
今時、日本の一般的な職場は、男女を問わず、まったく子育て向きではありません。公立学校のような産休補助の補充もなく、なにかあるとリストラ対象になりかねず、うっかりすると保育園も見つからず、かといって専業主婦ができるほどの経済的な余裕もありません。医学的な出産適齢期は二十代半ばだと言われていますが、よほど恵まれた人でない限り、その頃に出産までこぎつけることはできません。厚生労働省によると2011年の日本での平均初婚年齢は夫30.7歳、妻29.0歳で、20代半ばまでに結婚する人は少数派です。
さらに、子供を望むからといって、必ず授かるとも限らないという事実もあります。
私は29歳で夫と出会い、31歳3か月で結婚しましたが、38歳の今まで子供を授かっていません。すぐにでも子供が欲しいと思っていましたが、けっこうな回数の体外受精をしてもまだ良い結果は出ていません。
また、子供の養子縁組については、日本では条件のハードルが相当高いです。
「あなたも二十歳で結婚していれば、不妊になんてならなかったんじゃないの?」とでも言われてしまうかもしれませんが、私の場合、不妊の原因は年齢のせいともいえない部分だし、その頃には夫とまだ出会っていなかったのだから、仕方ありません。
結婚して8年目の私の生活は、朝病院に並んで、そのあと働いて、夜家に帰って夫の前でメソメソ泣きながら眠るような、パッとしない感じです。件の校長先生のような大人の考える「社会貢献できる人生」からは、すでに外れかかっているのでしょう。こんな風になってはいけないよ…といった悪い見本にされてしまうかもしれません。
ちなみに、不妊治療は、時間もお金もかかり、精神的にもハードです。仕事との両立も難しく、安心して妊活できる世の中だとも言えません。妊活や不妊治療は自分で望んでやっていることなので大変だと強調するつもりもありませんが、同じ生活を他人に押し付けることはとてもできません。どのように妊活するかも、周りに押し付けられることではなく、本人が納得して決めることだと思います。
子供を持たなくてはいけない、という考えは、子供が産めない人は価値がない、のような考えにつながります。私も、もうさんざん色々な人に好き勝手言われてきましたが、妊活で成果の出ていない女性は、他人との比較や順位付けによって追い詰められ、傷ついています。
私の場合、一日も早く妊活で成果が出てほしいと思っていますが、正直なところ、妊活以外にも、日々の暮らしなり、仕事なり、他の面でもいろいろ頑張っているのです。妊活だけが人生ではありません。子供を産んで育てることは大切ですが、状況によっては、別の方向で社会貢献することもありだと思います。
きっと世の中には素晴らしい先生もたくさんいることと思いますが、昨今の学校や教師が引き起こす事件や問題を考えると、学校という空間は、あまりに社会と断絶してしまっているのではないかと思います。
学校の先生は、テンプレ通りの人生を子供に押し付けようとするのではなく、子供が出会う初めての社会人として、社会の難しさや多様性を教えてほしいと思います。